サーチファンド・ジャパン
インタビュー

Interviews
Eisuke KOBAYASHI

 Interview #

11

2025

 年

7

 月

小林英輔

Eisuke KOBAYASHI

ゲートウェイアーチ 代表取締役

日本サーチファンド協会 代表理事

Vol.4 | 日本サーチファンド協会設立の思い

─サーチ活動の傍ら、日本サーチファンド協会の理事として協会の立ち上げにも携わってこられました。どのような背景や思いがあったのでしょうか

 先駆的に活動されてきた方々の努力の賜物として、サーチファンドという言葉が少しずつ認知を得られていると感じており、サーチファンドは、事業承継問題へのソリューションとして語られる機会が増えてきました。ただ、その際には、譲渡オーナー側の立場からのメッセージ、すなわち「誰に事業を託すべきか」というストーリーラインで語られることが目立つ傾向があるように思います。

 一方で、事業承継における主役は誰かという点に立ち返ると、事業承継の意義は、日本経済を支える中小企業を次世代へ繋ぐことにあります。その未来を作っていく主役は、「現場で働く従業員」や、「これから企業を背負う新しい経営者」です。だからこそ、「これから企業を背負う新しい経営者」であるサーチャー自身が、この仕組みの主体であるべきだと考えており、サーチャー主導で協会を立ち上げました。

 また、最近は様々な形態のサーチファンドやそれに類似した取り組みが登場しており、それぞれが孤立して知見が分断される危機感も抱いていました。各人が納得のいく意思決定を行うために、誰もが共通の土台で情報を比較できる環境が必要で、協会はそのためのプラットフォームとして位置付けています。知見を共有することで、結果として事業承継がスムーズになされ、従業員やサーチャーも幸せになり、サーチファンドというエコシステムの健全な発展に寄与すると考えています。

 そのため、協会は特定の枠組みに限定することなく、「大きな船」でやるべきだと考え、トラディショナル型に限らず、アクセラレーター型を含めた広い座組で協会を立ち上げました。

 

─サーチャーが主体となって健全なエコシステムの発展をめざすという大きな視座から協会が設立されたのですね。次に、今後の協会としての活動内容について教えて下さい

 今後の協会活動は、大きく二つの方向性を想定しています。一つは会員へ向けたナレッジ共有、もう一つは外部に向けた情報発信です。

 まず、内部向けの取り組みとしては、サーチ活動のフェーズを問わず、サーチャーが直面する実務上の課題や知見を共有することに価値があると考えています。例えば、サーチャー同士の勉強会やゲストを招聘しての講演会など、クローズドな場でしか語れないリアルな体験こそが、ナレッジとして価値があると考えています。

 外部に向けた発信としては、これからサーチファンドに取り組みたいと考える人たちが、最初にアクセスできる環境を提供したいと考えています。正しい情報を提供し、彼らが適切な判断を下せるよう後押しすることで、結果として良い事業承継に繋がっていくと考えています。

 サーチファンドを自己勘定で行うのか、トラディショナル型で行うのか、アクセラレーター型の支援を受けるのかといった議論もありますが、これらはあくまでも選択肢であって、サーチャー自身に合ったやり方を自身で選ぶこと、そのためには信頼できる情報がテーブルに載っていて、それに基づき各自が意思決定することが大切であると考えています。

 

─これからサーチファンド協会の活動を通じて成し遂げていきたいことについてご教示ください 

 サーチファンドは、「個人」が承継を実現していくスキームであるため、信用という観点から、金融機関やM&A仲介会社、譲渡先というような関係者との関係構築が難しいという課題があります。特にM&Aという性質上、関係者が保守的にならざる得ない局面も多く、サーチャーにとってもエントリーのハードルが上がっていると感じています。

 こうした課題に対し、協会として、協会がサーチャー個人へ信用力を付与する存在となることを中期的な目標として見据えています。協会に所属することが一種の与信となり、トラディショナル型、アクセラレーター型を問わず、関係者との連携が円滑に進むことを期待しています。

 おそらく、これまでもサーチファンドに類似する取り組みは存在していました。しかし、あえて「サーチファンド」と称し、仕組みとして明確に体系化することで、関係者同士の合意形成がスムーズに進み、意思決定にかかるコストを大幅に低減させたいと考えています。

 

―これまで、トラディショナルサーチャーとして、また、日本サーチファンド協会代表理事として小林さんにその活動と思いをお伺いしてきました。最後にインタビューの締めとして、日本におけるサーチファンドの意義は何だとお考えでしょうか

 サーチファンドが日本の事業承継問題を全面的に解決し得るとは思っておりません。サーチャー個人が一生をかけて承継できる会社の数は、多くて数社だとすると、日本全国の膨大な事業承継ニーズから見れば、ごく一部に過ぎないためです。

 しかしながら、サーチファンドというアプローチを可視化し、共有することで「EntrepreneurshipThrough Acquisition」という新しい選択肢が認知されていく中で、一人でも多くの人が事業承継問題へ取り組むきっかけとなればと考えています。

 サーチャー個人としては小さな活動かも知れませんが、そのようなマインドが伝播していけば、日本社会にとって大きな意義を持つと考えています。

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▼小林英輔氏(ゲートウェイアーチ代表取締役、日本サーチファンド協会代表理事)連載インタビュー

vol.1 | トラディショナル型サーチファンドへの挑戦

vol.2 | 試行錯誤の連続「やれることは全部やる」

vol.3 | 前オーナーが掲げた夢の承継

vol.4 | 日本サーチファンド協会設立の思い

インタビュー一覧

#

11

小林英輔

ゲートウェイアーチ 代表取締役

日本サーチファンド協会 代表理事

#

10

ポストCXOとしてのサーチャーキャリア

藤井健(コスメプロ代表取締役) x 大串庄一(サーチャー)

x

#

9

伊藤公健

サーチファンド・ジャパン

代表取締役

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8

ポスト商社としてのサーチャーキャリア

大富涼(元三菱商事) x 三輪勇太郎(元三井物産)

x

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7

小林和成

MCPアセット・マネジメント

マネージング・ディレクター

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6

松木大

DBJ (日本政策投資銀行)

企業投資第3部長

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5

三輪勇太郎

サーチファンド・ジャパン

サーチャー

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4

荒井裕之

キャリアインキュベーション

代表取締役社長

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3

大富涼

アレスカンパニー

代表取締役社長(元サーチャー)

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2

新實良太

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

#

1

神戸紗織

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

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