Interview #
11
2025
年
7
月
小林英輔
Eisuke KOBAYASHI
ゲートウェイアーチ 代表取締役
日本サーチファンド協会 代表理事
―様々な苦労の中サーチフェーズを終え、ゲートウェイアーチ社を承継されて約3か月が経ちました。これまでに取り組まれてきた事項について教えてください
まずは、事業理解をさらに深めるため、情報の棚卸に注力しました。オーナー企業であった当社は、一定の属人化が進んでいたため、それを補うべく、全ての取引先やサプライヤーの皆様に直接お会いし、取引開始の経緯から近況までお伺いしました。
それと並行して、社内では、今後の経営上の課題になりうるポイントを洗い出し、重要度と緊急度でマトリクスを作りながら、それぞれの課題に対する施策の方向性を検討しています。
また、当社はこれまで、限られた会社としか取引してなかったのですが、それだと事業の可能性が狭まってしまうので、いろいろな会社の方とお会いして、ジグソーパズルの新しい展開や用途について模索しています。その一環として、ECでの販売も準備中です。小規模でも良いのでエンドユーザーの声を直接拾える場を作ろうと思っています。もともとはBtoBの事業ですが、最終的には「誰がどう使うか」の感性を理解しないと、良い商品は作れないと考えています。
-お二人しかいないのだとすると、バックオフィスについてもご自身でやられているのでしょうか?
その通りです。地味ですがとても大事なところです。会計に関しては、前オーナーの体制だと、帳票類を全部紙で印刷してレターパックで税理士さんに送っていました。これは大変だと思い、クラウドツールを導入して電子化し、業務効率化を図っています。今はまだ私がバックオフィス全般を担っていますが、将来的にはこれらの業務を標準化し、徐々にアウトソースしていく予定です。
ただ、このプロセスを通じて実感したのは、「サーチファンドの経営者って簿記3級は必須じゃないか?」ということです。私自身、今までは営業や戦略の仕事が中心だったのですが、実際に仕訳を自分で切ってみると、「あ、こういうことか!」って腑に落ちることがすごく多くて。MBAよりも簿記3級の方が役に立つ場面が多いかもしれません(笑)。
―トラディショナル型サーチファンドでは、複数の投資家と協働する構造上、投資家とのコミュニケーションも重要な要素かと思います。投資家とのコミュニケーション頻度や内容についても教えていただけますか
承継後間もないため、コミュニケーション方法については探っている最中ですが、四半期ごとにレポートベースでご報告をし、場合によっては個別でご面談する形を考えています。
また、ガバナンス体制として、ボード(ステアリングコミッティに近いもの)を設置しています。法的な取締役会ではなく、経営判断の壁打ち相手のような存在ですね。サーチ期間中から相談してきた投資家の方で、信頼できる方々に引き続き入っていただいていて、重要な意思決定をする際にはまずそこに諮るようにしています。
―ありがとうございます。今後の成長戦略についても是非教えて下さい
承継を決断した理由でもあるのですが、ジグソーパズルには、想像以上のポテンシャルがあると考えています。誰もが触れたことのある玩具であるにもかかわらず、パッと思い浮かぶメーカーや製品が存在せず、市場として確立されていない印象があります。
今後の成長方針は、大きく2つの方向性で考えており、1つは国内市場の深耕です。
例えば、米国は日本の15倍以上のジグソーパズル市場規模があり、ジグソーパズルは個人の遊戯を超えてコミュニケーションツールとして文化的に根付いています。日本でも、ジグソーパズルをコミュニケーションツールやギフトアイテムとして再定義することで、新たな需要を創出できると考えています。
もう1つは海外展開です。社名の「ゲートウェイアーチ」は、アメリカのセントルイスにあるGateway Archに由来しています。アメリカの西部と東部を繋ぐ架け橋の象徴です。そこから、社名には「日本から海外へ」という思いが込められています。この理念のとおり、当社が保有する技術を武器に、海外市場を積極的に狙っていきたいと考えています。
当社の強みは、業界での独自のポジショニングにもあると考えています。多くのパズルメーカーが有名アニメやキャラクターとのライセンス契約に基づいた商品展開を行う中、当社はジグソーパズルそのもののエンターテインメント性で差別化を図っています。
この前提となるのが、自社プロダクトの独自性です。当社のジグソーパズルは、一般的な紙製ではなくバイオプラスチックを使用しており、透過性を有するなど、他社にはない機能美があります。さらに、パズル同士が一度はめ込まれると固定される構造となっており、糊付けせずに形状を保持できる構造になっています。
ニッチな領域で確固たる地位を築きながら、ジグソーパズルというプロダクトの新たな可能性を国内外に広げていきたいと考えています。
―ここまで、ゲートウェイアーチ社を承継されてからの動きや今後の展望についてお伺いしました。改めて、これまでのキャリアを振り返って、サーチファンドに取り組むにあたり活きた経験はありましたか
総合商社で投資、物流、ファイナンスまで幅広い領域を経験してきたことが、総合力を問われるサーチファンドにおいて非常に役立っています。過去の経験が全部うまくつながった感覚があるんです。サーチファンドの場合は投資家的な視点も必要ですし、当然経営者の目線も欠かせない。役割を切り替えながらやることが求められる仕事なのですが、以前のキャリアでそれぞれの役割を担っていたことは大きかったと思います。
また、業界としても金属に始まり水産にも携わりました。異なる業界での経験から、業界を相対化して見る視点が身についたと感じています。たとえば、「金属業界ってこうだったな、でも食品業界はまた違う」とか。業界ごとの特徴や文化みたいなものを、自然と比較できるようになっていました。そういう目線で見ると、「じゃあ玩具業界ってどうなんだろう?」と冷静に観察できる。業界へのアジャストは、正直そこまで苦労しませんでした。未知のものに当たっても、構造を理解して、ポイントを押さえれば意外となんとかなると思えるようになったことは今でも生きています。
マインド面では、やればできるというマインドが自然と培われていたことが、最大の財産であったと感じています単身渡米してアメリカ人と切った張ったの交渉や、パキスタンへ出張して腹を下しながら年間契約の交渉をする、といった経験を何度もやってたので、今の仕事で交渉の場に出ても、全く物怖じしなくなりました。「場数」が自分を支えてくれている気がします。
振り返ってみると、自分のキャリアは「特化型」ではなくて「広く浅く」やってきたタイプです。でも、逆にそのおかげで「究極のゼネラリストを目指そう」と思えるようになった。そして、その延長線上にあったのが「経営者」だったんですよ。いろいろ経験させてもらったキャリアでしたが、ようやく、サーチファンドという手段を用いて経営者となる、という現在の道に繋がってきたと思いますね。
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