Interview #
11
2025
年
7
月
小林英輔
Eisuke KOBAYASHI
ゲートウェイアーチ 代表取締役
日本サーチファンド協会 代表理事
今回はトラディショナル型サーチファンドであるジャパンブルズアイキャピタルの共同代表であり、一般社団法人日本サーチファンド協会の代表理事も務める、サーチャー小林英輔さんにお話を伺います。
小林さんは総合商社での多様な経験を経て、スペインの名門IEビジネススクールでMBAを取得後、トラディショナル型サーチファンド形式でサーチ活動を開始し、2025年、ジグソーパズルメーカーである株式会社ゲートウェイアーチの承継に至りました。
総合商社でのキャリアから一転、なぜ中小企業の経営者を目指され、なぜサーチャーとなったのか。トラディショナル型サーチファンドの実情と、承継後の取り組み、そして日本サーチファンド協会を立ち上げた背景についてお伺いしました。
―まずはこれまでのキャリアについて教えてください
2013年に東京大学を卒業後、総合商社である三井物産に入社し、金属資源本部に配属され、海外投資先の経理財務、子会社管理といった管理業務を担当しました。
キャリアの転機となったのは、四国支店に異動したことです。そこで、地元の中小企業とのジョイントベンチャーでブリの養殖・加工販売事業の立ち上げを経験しました。JVの組成から事業の立ち上げを担う中で、中小企業の経営者と密に仕事をさせていただき、経営者の裁量の大きさ、背負う責任の大きさを体感し、経営者キャリアに興味を持つ原点となりました。
東京本店へ帰任してからは、金属資源のトレーディングを担当し、その間にロンドン、ニューヨーク、上海の駐在も経験しました。その後は、2022年にIE ビジネススクールへ入学し、卒業直後の2023年10月に、ジャパンブルズアイキャピタル合同会社を設立してトラディショナル型のサーチファンド活動(※トラディショナル型の詳細はこちら)を開始しました。1年半のサーチ活動を経て、2025年3月に株式会社ゲートウェイアーチを承継し、今日に至ります。
―総合商社から一転してサーチャーとして経営者を志されましたが、サーチファンドという存在を知ったきっかけは何だったのでしょうか。また、サーチファンドを志した背景についても教えてください
30代を迎え、自身のキャリアを考えた時、「経営者になりたい」という思いが自分の中で強くなっていることを感じました。当時在籍していた金属資源の分野では、若手が子会社の経営層に就く機会は限られていたため、別の道がないのか模索をする日々が続きました。外部から経営者として招聘されるプロ経営者という道も考えましたが、プロ経営者の場合は、経営または近しい経験が求められるため、自身の経験だけでは難しいと感じていました。また、自分が経営者キャリアに興味を持ったのは、前述した四国の中小企業経営者と仕事をしたことが最も大きく、そのスピード感やダイナミズムを肌で感じる中で、中小企業の経営者の面白さに惹かれた側面もあります。
そんな中、情報収集を続ける中で、偶然、黒澤慶昭さんがサーチファンドを立ち上げたというニュースを見つけたのがサーチファンドとの最初の接点でした。中小企業の経営に携わってみたいという自身が思い描いていたキャリアと重なり、サーチファンドにチャレンジすることを決めました。
ただ、当時の日本ではサーチファンドは黎明期であり、投資家の理解を得るためにも、サーチファンドに関する体系的な知識の習得やネットワークの構築が不可欠だと感じ、MBA留学を決意しました。留学先としてスペインのIEビジネススクールを選んだのですが、スペインは欧米の中でもサーチファンドの研究が盛んな国であり、IEでもたくさんのサーチファンド経験者を輩出していたこと、特に日本でもサーチファンド活動をされ、現在中小企業を経営されている志村光哉さんがIE卒業生であることも大きな決め手でした。
―サーチファンドにチャレンジするためにMBA留学を決意されたのですね。小林さんが設立されたサーチファンド「ジャパンブルズアイキャピタル」は2人のサーチャーが一緒に活動するペアサーチファンド形式で活動されているかと思いますが、この形式で始められた背景を教えてください
会社の成長には営業力が必要不可欠だと考えていました。私自身も総合商社時代に企画型営業の経験を積んできたものの、より幅広い営業スタイルを持つパートナーがいれば、描ける成長戦略の選択肢も大きく広がると考えました。だれが適任だろうかと考えていたときに、IE同窓生の洲崎瑞治さんと出会いました。洲崎さんはセールスフォース・ジャパンで主に中小企業に対する営業の経験がとても豊富で、これは適任だと感じ、必死に口説きました。休暇中に洲崎さんを大学に呼び出して、ホワイトボードでサーチファンドの説明をし、「一緒にやろう、ただリスクもあるし家族のこともあるから、本当にやりたいと思ったら5日以内に返事が欲しい」と伝えまして。そうしたら、彼は私の誘いを受けてくれました。彼は、デュアルディグリーといって、もう1年、別の学科でマスターを取得するプログラムがあったのですが、それを辞退してまで、私とサーチファンドの世界に飛び込むという決断をしてくれたのです。
―それはすごい覚悟ですね。そうして満を持してお二人でサーチファンド活動を開始されたわけですが、トラディショナルサーチファンドの場合、まずは複数の投資家からサーチフィーを調達する必要があるかと思います。サーチフィー調達はどのように進められたのかお聞かせください
資金調達については、先行して活動されていたトラディショナルサーチャーの方々のお話しも伺っており、大変なフェーズだと認識していました。
当初の方針としては、海外の投資家よりも、まずは会社の先輩や大学時代の知人といった国内の関係者へのアプローチから始めて、その後は、知人の知人くらいまで広げて、いろんな経営者の方へお声がけし、ご面談の機会をいただきました。これには目的が3つあって、第一に、海外にいる時間が長かったので、日本の中小企業経営に携わっている方々から日本のリアルな経営感覚を感じることを意識しました。第二に、実際に地方の中小企業の事業承継の現実も肌で感じておきたかったことも大きな目的の一つです。特に地方の名士の方々は、たくさんの情報をお持ちでした。そして第三に、サーチ活動について率直なフィードバックをいただくことです。「30代半ばならちょうどいい」と言ってくれる人もいれば、「高齢の経営者に舐められるかもね」と言う人もいて、意見はバラバラでしたね。
サーチフィー調達はIE在学中に始めたので、最初は全てリモートだったのですが、それだけだと限界を感じ、イースター休暇に一時帰国して、日本全国走り回りました。やはり直接投資家候補の方に会って話すと、「わざわざ会いに来てくれたから真剣に検討するよ」って言ってくれた方もいて、直接会って話をすることの大事さを改めて感じました。
これらの対話を通じて、サーチファンドというスキームに興味を持ってくれた方々には、詳細な説明を行い、出資をお願いしました。資金調達は自身の活動に対して率直な意見をもらうプロセスでもあり、多くの示唆と学びを得る機会でもありました。
-お話を伺っていると、サーチファンドの投資経験もさることながら、そもそもサーチファンドのこと自体もあまり知らない方々にもたくさんお声掛けをしたのでしょうか?
サーチファンドの投資経験者は、先輩サーチャーの志村さんの紹介以外いませんでしたね。サーチファンドのことを知らない人たちも半分ぐらいいました。ただ、詳細に説明すると「それってPEファンドと似てるスキームだね」と言ってくださる方もいれば、「承継する会社も決まってないのに出資?」と戸惑う方も多かったので、そこは海外の事例を交えて丁寧に説明していきました。また、トラディショナル型サーチファンドの場合、一般的には、サーチフィーで投資したお金は、M&Aが実現すると、1.5倍の価値で回収することが可能な建付けのため、「M&Aが実現すれば回収できるよね」という見方をしてくれる方も多く、日本での事業承継の統計を示して、M&Aの実現可能性に対して説得力を持たせたりもしました。
-なるほど。サーチファンドを知っているグローバル投資家よりも、サーチファンドのことを知らなくても良いから、まずは共感してくれる国内の方々を中心にお声掛けされたのですね
その通りです。グローバル投資家から資金調達するときは、必ず「国内で応援してくれる人がいるのか?」を問われます。そこをパスしないと、なかなか彼らも乗ってこない現実があります。また、我々としても、いわゆるエンジェル投資家のような、日本の中小企業の経営経験があり、精神的にも壁打ちいただけるような存在の方々に投資家として入っていただきたい、と考えていたことも背景としてはありますね。
―投資家の方々はどのような反応だったのでしょうか
投資家の反応は様々でした。「日本での事業承継のニーズは大きいよね」と理解してくださる方もいれば、「君たちが四苦八苦しながら試行錯誤していく姿を見たい」というSっ気のある方もいました。
海外の投資家は、日本市場の成長性に懐疑的な方もいらっしゃいましたが、グローバルマーケットに比して低金利である日本の金融環境や少子高齢化に伴う事業承継のニーズに詳しい方は、前向きに検討してくれました。
我々の人となりを知っていただいた上で、新しいことにチャレンジする精神を評価してくださる方が多く、次第に投資家が増えていき、国内7割、海外3割の割合の投資家の皆様からサーチフィーをご出資いただきました。
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