サーチファンド・ジャパン
インタビュー

Interviews
Satoshi TANAKA

 Interview #

12

2025

 年

9

 月

田中聡

Satoshi TANAKA

ディオントーキョー

代表取締役

Vol.2 | 自由という苦しみを越えて ―サーチャーが直面する“静かな苦しさ”

―サーチ活動を始めた当初、どのように動かれていましたか

(田中)日本M&Aセンターにも在籍してたのでマーケットの状況はよくわかっていたつもりで、承継先はすぐに見つかるだろう、と思っていました。ただ現実はゼロベース。M&A仲介各社も、2021年当時は「サーチファンドって何?」という段階で、売主への説明が面倒だと感じられることも多かったはずです。それでも、時間を取って承継先候補を紹介してくれる方もいました。SFJからのご紹介も受けながら、最初はとにかくM&A仲介を駆け回って探索していました。

―サーチファンドは一社を選んで承継する仕組みです。一社しか選べない中で、どんな基準で見ていたのでしょう

(田中)最終的には「自分が成長させられるイメージを持てるかどうか」です。とはいえ初期はブレていました。何でも検討したくなるし、あまり知見、経験のない会社にも手を伸ばしてしまう。承継後の安定した成長を目指すために、「本当に自分はこの会社を成長させられるのか?」と自問自答を繰り返していきました。

―サーチ活動は順調にはいかなかったのでしょうか?

(田中)はい。最初の半年で決められると思っていましたが、甘かった。次の半年でオーナー様との面談やDD(デューデリジェンス)が進行するプロジェクトも増えましたが、最終合意には届かない。結果として一年が過ぎ、精神的にも堪えました。サーチ活動中はプロジェクトが動かないとすごく忙しいわけではない。日常がつらいんです。妻は仕事、娘は学校、自分だけ家にいる。ゴルフ練習場に行くくらいしかやることがなく、気持ちの切り替えができない。体は疲れていないのに頭だけ回り続けて眠れない夜が続き、「自分は何をしているのか」と悩む日々が続きました。

―怒涛の人生を歩んでいた田中さんにとっては堪えるものがあったのですね。その中で支えになったものは何かありますか?

(田中)プロジェクトが動いていない時でも伊藤さんや巻島さんから「元気?」と連絡が来る。それだけで救われました。生存確認みたいな一言でも、気にかけてくれていると感じられて、サーチャーとして選んでいただいたことに応えたいと奮起しました。

(巻島)サーチファンドは自由度が高い取組です。だからこそ自分で承継先を選び、最後は言い訳できない状況に自分を置く必要があると考えています。「これをやってください」と私が指示すれば楽ですが、それでは普通のPEファンドと同じ。田中さんにも自分で決めてもらうスタンスを貫きました。自由という苦しみを越える経験そのものも、サーチファンドの醍醐味だと思っています。

―長いサーチ活動期間を経て、現在、田中さんが社長を務めるディオントーキョーに出会うことになります。この会社に興味を持った背景を伺えますか

(田中)ディオントーキョーはインドアゴルフ用のゴルフシミュレーター「OK ON GOLF」の日本総代理店、インドアゴルフスタジオ「ゴルファーレ(GOLFAREI) の運営を手掛けている企業です。私が承継する企業を決めるのに大切にしていた判断基準は「成長性・収益性・社会性・安定性」の4つです。ゴルフ業界はアウトドアの練習場が減少する中でも、ゴルフファンは依然として相当な市場規模を誇っていることに加え、若者の参入も増えており、市場の広がりは十分に見込めました。そこに収益性と安定性を乗せられれば、潰れることはない。このロジックに自分がぴたりとはまった感覚がありました。特に主力商品であるゴルフシミュレーターの売上台数は大きく伸びており「これはいける」という実感がありましたね。

 さらに決め手となったのは、販路の多様化が見込まれることです。企業の福利厚生の一環や個人宅への販売、また、フィットネス事業者が付加価値向上施策としてゴルフシミュレーターを導入するケースがあるなど、多くの方に価値を提供できるポテンシャルを感じました。

 もちろんリスクもありました。仕入れが韓国メーカー経由だったため、承継前に、巻島さんと一緒に現地へ確認に行き、メーカーの代表者とお会いし、その人柄を直接見て安心しました。

-本格的なDD(デューデリジェンス)に入る前に、前オーナーのカバン持ちもさせてもらったんですよね

(田中)はい。DDに入る前から2か月間、前オーナーと営業に同行しました。商流の現状や社員の皆さんの人となり、過去の出来事まで率直に話してもらえたのは大きかった。最も重要だったのは、前オーナーが自分と共に当初半年間をバックアップしてくれるかどうか。そこを確かめられたことは何よりありがたかったです。実際、承継後も全面的にサポートしてくださり、大変助けられました。

―投資実行の段階では、サーチファンド・ジャパンからの支援もあったと思います

(田中)はい。DDのサポートや銀行回りの資金調達など、巻島さんの全面バックアップにとても助けられました。

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▼田中聡氏(ディオントーキョー代表取締役)連載インタビュー

vol.1 | 挫折と挑戦、その先に ―プロ経営者が選んだサーチファンド

vol.2 | 自由という苦しみを越えて ―サーチャーが直面する“静かな苦しさ”

vol.3 | 覚悟が問う、経営者としての生き様の行方

インタビュー一覧

#

12

田中聡

ディオントーキョー

代表取締役

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11

小林英輔

ゲートウェイアーチ 代表取締役

日本サーチファンド協会 代表理事

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10

ポストCXOとしてのサーチャーキャリア

藤井健(コスメプロ代表取締役) x 大串庄一(サーチャー)

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9

伊藤公健

サーチファンド・ジャパン

代表取締役

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8

ポスト商社としてのサーチャーキャリア

大富涼(元三菱商事) x 三輪勇太郎(元三井物産)

x

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7

小林和成

MCPアセット・マネジメント

マネージング・ディレクター

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6

松木大

DBJ (日本政策投資銀行)

企業投資第3部長

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5

三輪勇太郎

サーチファンド・ジャパン

サーチャー

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4

荒井裕之

キャリアインキュベーション

代表取締役社長

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3

大富涼

アレスカンパニー

代表取締役社長(元サーチャー)

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2

新實良太

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

#

1

神戸紗織

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

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