日本のサーチファンド業界の今 -米国との違い、独自の発展の背景- vol.1

 私たちサーチファンド・ジャパンが設立されてから3年が経ちました。この3年の間に、サーチファンドという言葉を目にする機会も増え、プレイヤーも増えてきました。

「経営者候補が投資家の支援を受けてM&A/事業承継を主導する」という、サーチファンドのコンセプトについては認知が広がっている実感がある一方で、「PEファンドが経営者を招聘するのとは何が違うの?」、「●●型サーチファンドっていろいろあるけど、どう違うの?」といった質問もよく聞かれるようになりました。

  日本におけるサーチファンド業界が黎明期を経て、次のステージに向かおうとしている今、サーチファンドの定義や成り立ち、また日本におけるサーチファンドの現在地を改めて整理しておこうと思います。

 

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サーチファンドの歴史と概要

 「個人が投資家から資金支援を受け、企業のM&Aと経営を行う」というのがサーチファンドの基本的な考え方です。

経営者を目指す人材が投資家からの出資を受け、1~2年の間に魅力的な投資対象企業を発掘する。投資先企業が見つかったら、投資家から追加で資金調達してM&Aを実行し、自らが投資先の経営者として企業価値の向上に邁進する。これがサーチファンド活動の全体的な流れです。

 

 サーチファンド活動を始める個人が、サーチ活動(投資先の発掘)に必要な資金を投資家から集めて活動を開始することから「サーチファンド」という名前がついています。この活動を行う経営者候補は「サーチャー」と呼ばれます。

 

 日本ではここ数年で脚光を浴び始めたサーチファンドですが、世界最初のサーチファンドが生まれたのは1984年、いまから40年近く前に米国スタンフォード大学のビジネススクールで誕生したと言われています。 

 日本で最初にサーチ活動を行ったのは、当社代表伊藤公健と言われています。伊藤は経営コンサル、外資系PEファンドを経て、2014年にサーチファンドという仕組みに出会い、自らサーチャーとして、投資家からの資金調達と投資先企業の発掘を行い、株式会社ヨギーという会社をM&Aし、経営者として企業価値の向上を実現しました。 

 

  2018年以降、山口フィナンシャルグループ/JaSFA、当社サーチファンド・ジャパンらが、サーチファンド型の投資事業を開始し、近年では野村證券、横浜銀行、エキサイト等もサーチファンド投資に参入しています。これら日本における主要なサーチファンド投資家は、米国とは異なる独自の仕組みで、日本のサーチファンド業界の立ち上げをけん引しています。

 また、米国型のサーチファンドの仕組み(トラディショナル型と呼ばれます)に則り活動する日本人サーチャーも複数誕生しています。

 

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サーチファンドという言葉の定義と誤用

 上述の通り、サーチファンドとは「個人が投資家から資金支援を受け、M&Aと経営を行う」ために、サーチャー個人が設立する法人/組合のことを指す言葉です。そのため、サーチファンドは個人版PEファンドと呼ばれることもあります。

  私たちサーチファンド・ジャパンのような立ち位置にいる投資家は、「サーチファンドに投資する投資家」であって「サーチファンド」そのものではありません。ファンド=投資家というイメージからか、「●●銀行がサーチファンド立ち上げ」、「経営者候補を支援するサーチファンド」といった表現が散見されますが、これは誤用です。 

 

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日本独自のサーチファンド投資スタイルとその背景

 さて、日本におけるサーチファンド業界は、米国とは異なる投資家層や投資スタイルで立ち上がってきました。この背景と意味合いを考察してみたいと思います。(この日本独自の仕組みが、上記の言葉の誤用を生んでいる背景の一つでもあります。)

 

 米国のサーチファンドでは、個人が10~20人の投資家から資金を集めてサーチ活動を開始するのが一般的です。米国では40年の歴史を経て、サーチファンドに投資を行う厚い投資家層が存在します。元サーチャーとして成功した人たちがサーチファンドに対する投資家になり、エコシステムを形成してきました。

 しかしサーチファンドのマーケットがなかった日本には、サーチファンドのことを理解し投資をしてくれる投資家が10人もいませんでした(ほぼゼロだったと言ってもよいでしょう)。2014年に伊藤公健が投資家集めをした際には、サーチファンドという言葉を知っている人さえほとんどいませんでした。

 【2014年当時の伊藤の経験はこちら

 

 そのため、日本でサーチファンド業界を立ち上げるには、米国で一般的に10人の投資家から集める資金を、まとめて1社で拠出できる投資会社が必要だったのです。この戦略のもと立ち上がったのが、当社サーチファンド・ジャパンであり、おそらく他の日本のサーチファンド投資家にも同様の背景があったのではないかと推察します。

 この結果、1社でサーチ資金/M&A資金をまとめて拠出する投資家が主導するかたちで日本のサーチファンド業界が立ち上がりました。この1社でM&A資金をまとめて拠出する仕組みは、一般的なPEファンドと同様であり、日本ではサーチファンドとPEファンドの違いを分かりにくくしている要因の一つです。

 PEファンドとの違いを分かりにくくしているものの、サーチファンド黎明期の日本で業界を立ち上げるために、この戦略が有効であったことも事実でしょう。

 

 またサーチファンド投資家として地方銀行が大きな役割を果たしてきたことも、日本ならではの特徴です。

 日本で最初にサーチファンド投資を組織的に立ち上げたのは山口フィナンシャルグループです。2023年には横浜銀行もサーチファンド投資を始めました。また、当社を含め全国を対象としたサーチファンド型投資ファンドにも地方銀行が多く出資しています。

 米国ではビジネススクール卒業生のキャリアという視点で発展してきたサーチファンドですが、地方の中小企業の事業承継問題に対し、経営者候補がM&Aを主導するサーチファンドが解決策となり得ると期待されているのです。 

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 ここまで、サーチファンドという言葉の定義と、日本におけるサーチファンド業界の発展の経緯を振り返ってみました。次回は、独自のスタイルで発展しつつある日本のサーチファンドの特徴と米国との違いを整理してみたいと思います。

【vol.2 に続く】

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