コラム

サーチファンド投資 「超簡易版」投資シミュレーション(テンプレートあり)

企業価値/株式価値の算定方法には様々なものがありますが、正解は一つではありません。それぞれの手法の本質的な意味を理解し、ご自身の投資手法や投資目的にあった算定を行うべきでしょう。

PEファンドやサーチファンドが投資を行う際は、その投資手法を反映したLBOモデルというシミュレーションを行うことが一般的です。LBOモデルは大まかに以下の3つ要素で構成されます

  1. M&A時の譲渡価額はいくらで、その資金をどう調達するか
  2. 投資後の経営期間中にキャッシュフローがどう推移するか
  3. しかるべき期間を経ていくらの投資回収ができるのか

M&Aの経験が少ないサーチファンド志望者にとって、精緻な投資シミュレーションに取り組むハードルは高いと感じられるかもしれません。一方で、大まかな考え方を理解できれば、精緻なシミュレーション無しでも、投資が成り立ちそうかどうか短時間で勘所をつかみやすくなります。

効率的な投資判断の一助となればと考え、簡易的なLBOシミュレーションテンプレートと使い方を整理しました。(シミュレーション用のテンプレートは本記事の下部からダウンロード頂けます)

※記事の内容やテンプレートは初心者向けです。正確性よりもイメージの理解を重視している旨、ご留意の上ご覧ください。

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Step1: 株式譲渡価額(M&A価額)と資金調達

Step1-①:足元のキャッシュの評価

PEファンド/サーチファンド投資においては、原則として「キャッシュフロー」に注目して検討が進みます。これを念頭に、対象会社の株式評価の考え方から始めましょう。

まずは、現時点で会社にあるキャッシュに着目します。現預金に加え、非事業性資産で現金化できるものがあれば(例:有価証券など)、これもキャッシュ同等物として考慮します。(※実際には、運転資金として最低限必要な現預金を考慮する必要がありますが、ここでは割愛します)

一方で、銀行借入等の有利子負債(例:短期借入金、長期借入金)がある場合は、上記キャッシュと相殺して計算します。

上記の「キャッシュー借入金」がプラスであれば、実質無借金(ネットキャッシュ)であり、逆にマイナスである場合はネットデット(Debt=借入)の状態です。

Step1-②:将来のキャッシュの評価(=企業価値)

①のネットキャッシュに加え、今後生み出されるであろうキャッシュフローについても評価をします。これは「企業価値」と呼ばれ、営業利益の〇倍(マルチプル)として表現されることが多い便宜的な評価です。

(※ 実務的には「EBITDA」と呼ばれる、営業利益に減価償却費を足し戻した指標が用いられますが、今回は分かりやすさを重視し「営業利益」で表現しています)

 

「〇倍」の妥当性は、例えば「業界平均が△倍だから・・」と単純に決まるわけではありません。後述する、投資後の事業計画や投資回収の見込みによって、つまり買い手の見立てによって妥当な評価は異なります。

一般的には、営業利益が安定している and/or 成長がみこまれるほど「〇倍」が大きく評価されます。

①と②を足した金額、つまり「足元のキャッシュ+将来のキャッシュ」への評価の合計が株式評価額になります。

Step1-③:資金調達

次に株式譲受に必要な資金の調達手段を検討します。資本コスト(要は利率)の低い手段での調達を活用することで、買い手は少ない自己資金で効率的な投資が可能になります。

この利率の低い資金を活用して投資効率をあげる仕組みは「Leverage(レバレッジ=てこ)」と呼ばれ、Leverageを活用するM&AはLeveraged-Buy-Out(LBO)と呼ばれます。

一番わかりやすい調達原資は買い手の自己資金(=エクイティ)です。ただし買い手の観点からすると、基本的には少ない投資で大きなリターンを得ることを目指しますので、他に安く調達できる資金がないかを検討します。先ほどのLeverageの考え方ですね。

そこで検討される調達原資が銀行借入です。将来のキャッシュフロー見合いで適切な額の借入を検討します。

もう一つの調達原資が、①のネットキャッシュです。事業運営に必要以上のキャッシュがあれば、資本効率の観点では寝かせておくのは得策ではありません。株式譲受の原資として活用を検討します。(※実務的にはM&A直前に配当として譲渡前に売手に支払う等、いくつかの手法があります)

これら銀行調達や必要以上のキャッシュを活用した残りを、買い手が自己資金から投資することになります。

M&Aの際に、余剰キャッシュを吐き出したり借入を増やすことは、会社に負担をかけているという見方もあります。実際には、銀行借入を活用し買い手の出資額を抑えることは、無理な成長/過度なコストカットを行うことなく買い手投資家に適切なリターンをもたらすため、無理なく現実的な経営ができるというメリットにつながります。もちろん借入額が適度な範囲であることは重要ですが。

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Step2:投資後の経営期間中のキャッシュフロー

投資後の経営期間、例えば5年間の利益/キャッシュフローの推移を試算します。当然この試算の裏には、市場分析や事業部別の計画などが存在します。

(※簡易的に営業利益を基準にしたモデルにしていますが、実務的には精緻に分析するため、設備投資や運転資金の増減等を考慮したシミュレーションを行います。特に店舗拡大や大型の設備投資を予定している場合は注意が必要です)

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Step3:投資回収額の計算

一定期間の経営ののち投資回収を行います。投資回収の手段は、上場、MBO、第三者へのM&A・・など様々な可能性がありますが、ここではStep1と同様の考え方、つまり「ネットキャッシュ+企業価値」という指標で第三者に売却することをイメージしています。

ここで算出された評価額で株式を売却し、サーチャーへのストックオプション等を控除した金額が、買い手投資家が回収できる額となります。

この投資回収額の見込みを踏まえて、期待リターンを達成するには・・と逆算することで、Step1における妥当な投資金額が決まってきます。

ここまでで、シミュレーションは一通り完成です。Step1~3は相互に影響があるため、一筆書きではなく、いったりきたりしながらシミュレーションを行います。

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考え方のコツ:投資リターンの源泉

ここまでに説明したLBO投資において、投資リターンをあげるための源泉は大きく3つあります。

  1. 投資期間中のキャッシュフローの累積(=5年後のネットキャッシュ)
  2. 営業利益の増加
  3. マルチプルの増加

Step3の株式評価の構造を改めて見てみると、上記の3つで構成されていることが分かると思います。この3つをいかに増大させるかが、投資リターンをあげるカギになります。

一般的にPEファンド投資では、投資した自己資金を5年程度の期間で2.5~3倍程度の価値にして投資回収することが期待されます。

・・・という説明をすると、「利益を3倍にする必要があるのか・・」と思われる方も少なくありませんが、ここまでの構造を理解できると必ずしも利益の増加だけが株価増大の要因ではないことが分かるでしょう。

テンプレートの試算では、営業利益の増加は1.3x程度ですが、投資期間中のキャッシュフローの累積の影響もあり、3倍近い投資リターンが達成されています。

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以上が、LBO投資を行う際のシミュレーションのエッセンスです。実際の投資判断の際にはより精緻なモデルで検討することになりますが、このエッセンスが理解できると、検討の初期段階で、ざっくりとした投資判断が効率的にできるようになるでしょう。

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